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えばオレが或る部屋で或る一人と一夜を共にしたとしよう。
オレと話をしている内に、彼女は僕の事を「狂っている」と思っていたとしよう。
彼女と話をしている内に、オレが彼女の事を「狂っている」と思っていたとしよう。
オレ達はどちらが「正常」なのだろうか。

そこに絶対的な倫理観が存在しているのか? それとも多くの狂っている人間が「普遍だ」と思えばそれは「正常」なのだろうか? こんな疑問を周りに幾ら聞いたところで何の参考にもならない答えしか返ってこなかった。「疲れてるんだよ」だの「ガキじゃないんだから」だの「はは、哲学だね」だの……。皆は気にはならないのだろうか? 疑問を持った事すら無いのだろうか?

いつもの自問自答がはじまって、思わず口から溜息が漏れた。
オレは諦めて目を閉じると、意識を頭骨の後方に集中させる。
取りとめも無く湧き出す疑問と思考。経験上こう言う場合は結論らしきものが出るまで放置するしか無いのだから……。

……そう、ガキの頃もそう思った。
……そう、「道徳」なる授業が大嫌いだった。「相手が嫌がることはやらない」「相手の気持ちになってみる」「草や動物も生き物だから優しく接する」
そんな事、実践できる人間なんているだろうか? 意識しないでも他人を傷つけることは多いし、自分じゃないから相手の気持ちなんかにはなれない。
他の生き物に優しく……って、獣肉食ってる人間の、どこを突っついたらそんなセリフが出てくるのだろうか。

それは対象を人間だけに絞ったとしても……例えば「自活すら出来ない人間」に募金をした人間はそんなに偉いのだろうか? 横断歩道を渡っている老人の手を取ってあげる、道を聞かれたら教えてあげる、電車で席を譲る……それも只の「優越感」や「満足感」や「社会的なプロパガンダ」では無いのだろうか?
……こんな事を日常的に考えているオレに対しての社会的評価はきっと「狂っている」のだろう。でもそれはオレにとっては「正常」な事なのだから……それとも「道徳」的には他人は今のオレの立場になって一緒に狂ってくれる、とでも言うのだろうか?

否、だ。そんなことは断じて無い。
働き、友人の話にあわせて頷き、欠伸をし、眠り、本を読んで、程々見れる女の子と付き合い、会社の人間と酒をかっくらい、クソをして。
それでも心は晴れぬまま時間が過ぎ、そして……そして、何時かは死ぬのだ。
そこまで考えて欠伸をしながら目を開けた。

今日は土曜日で会社が休みだ。オレはやる事も目的も見出せないままTVをぼんやりと見ているしかなかった。画面では濃蒼のスーツを着たニュースキャスターがタイムシートに沿って今日起きたどうでも良い事を喋っていた。自分を理解出来ない未熟者が他人の起こした事件なぞに口を出せるハズも無く、ただぼんやりとブラウン管を眺めていた。

「盗撮犯御用! 電車で90人以上も……!?」

CMが終るとチープなテロップと共に派手なBGMが流れ、ニュースキャスターが淡々と事件の内容を語り始めた。
90人以上も盗撮する、その情熱を是非分けて欲しい。無為よりも有為だ、そう思う。

リモコンでTVの電源を落として再びオレは目を閉じた。真っ暗な闇の中でに在るのは「オレ」と言う意識だけ。何となく生きている自分をそろそろ否定した方が良いかもしれない。オレは何か……何かを確かに渇望していた。

……詩都の笑顔が目の前に浮かんだ。
……彼女は何故オレなんかと付き合っていたのだろうか?

昨日、約束をスッポ抜かして残業をしていたら詩都から電話があった。電話口で怒鳴り散らす詩都をなだめながら、頭の中では既に自分を正当化していた。そうだ、今思えば生返事になっていたのかもしれない。とにかく詩都がキレた。とりつくシマも無かった。怒った詩都が別れ話を切り出した。オレは面倒になってそのまま電話を切った。

ヘドが出た。他人に併せるのが堪らなく面倒になった。心の底から誰でも良いからオレを殺してくれ、そう思った。続けてもう一回携帯が鳴った。母だった。つい逆ギレして母親を罵倒した。今度は母親が電話を一方的に切った。

なんだかモヤモヤしたものがどろりと腹に溜まった。
残業していた他の社員の目が痛かった。

一人で大きくなった自負なぞ無い。
でも人間関係を煩わしく思うことがたまにある。
今回はそれだった。
詩都とは会社で知り合った。正確に言うと、詩都がバイトで会社に入ってきて、暫く経ったら別の社員ツテで告白された。別段断る理由も無いので承諾し、ズルズルと2年ほど付き合ってきた。ちなみに詩都とは関係を持った事はない。別にセックスは嫌いでは無いが、いつの時期からか作られた性的な匂いが何となく嫌になっていた。
詩都はその性的な匂いを多分に含んでいたが、それは「うっとおしい程度の事」で我慢できた。酔っ払って枝垂れかかってくる等、それと無く「抱いて」アピールは何度かされた記憶はあるが、やっぱり何故だかいつでも気分が乗らなかった。オレの渇望はそこには存在していなかったのだ。

実はあれこれ考えるのも疲れていた。会社で傍若無人に振舞える同僚を本気で羨ましくも思ったりした。
何度も何度も、足掻いて……もがいて考える事に意味があるのだろうか?
ある程度考えたところで行動に移してしまえば、逆に答えなんか簡単に見つかるのではないか?
それを頑なに否定し続けて、今の自分がいる。今の自分を形成している。

もちろん好き勝手に振舞って、それで幸せとは思わない。
しかし実際に「好き勝手に振舞った事など無い」オレがそれを悟る資格なぞ、無いのではないか?
弱そうな奴からカツアゲしたり、アンパン吸ったり、パシリに万引きさせたり、女性に多人数で乱暴をしたりしてから「馬鹿をやった」と言っているヤンキー上がりの人間をメディアはモザイク付きでインタビューする。それは「経験者の重み」以外に何があるんだろうか?

喉がゴクリと嫌な音を鳴らす。
嫌な自分が此処にいる。存在している。思考を止めたいのに止まらなかった。

例えばオレが或る部屋で或る一人と一夜を共にしたとしよう。
オレと話をしている内に、彼女は僕の事を「狂っている」と思っていたとしよう。
彼女と話をしている内に、オレが彼女の事を「狂っている」と思っていたとしよう。
オレ達はどちらが「正常」なのだろうか。

ガキの頃から疑問だった。例えばこれの答えを探すのはそう難しいことでは無い気がする。
頭の中で勝手に条件設定がはじまった。

まず場所。これは簡単だろう。この部屋を使えばいい。最近引越してきたばかりだし、自分で言うのも何だが生活臭がまるでない。しかし、保険の為にもう一つぐらいヤサを物色しておいた方がいいかもしれない。次に……条件。この場合は当事者以外の他者の接触をなるべく避けたい。それには閉鎖空間にする必要がある。もっともオレにとっては閉鎖状態にする必要はないわけだから、この場合は単に相手がそう思いこめば良い。
3つ目は……相手だ。詩都はマズイ。本名から趣味、部屋の間取りから思考形態まである程度知られてしまっているし、それに第一振られたばっかりだ。相手は新規に何とか工面する方向で考えてみた方がよさそうな気がする。4つ目。相手はオレの事を「狂っている」と思わなければいけない。それには少々自信がある。普段考えているそのままの疑問をぶつければ、相手は勝手にそう思うだろう。今まで幾らでも「オレは論理的」だ、そう思って行動した事が相手にとっては「狂っている」以外の何者でもなかったケースがあったから。

ふと股間に痛みを感じて目を開ける。
それは既に……破千切れんばかりにそそり立っていた。
それを見て急に気分が萎えている自分が居た。
何だコレは? 何なんだ一体? 何故俺は興奮しているんだ?
動悸が速く、心が揺れ始める。
……落ち着け、落ち着くんだ。深呼吸をしろ……。

……5つ目はリスク。これは高いはずだ。何より腐っても「密室監禁」だ。被害者が通報すれば即行逮捕な事を考慮に入れると、慎重に慎重を重ねる必要がある。同時に遊びの無い計画は破綻する、それを肝に銘じて行動を起こさなければならない。……6つ目は、6つ目は……動機。5つ目と関連するが、警察に捕まった時の「動機」を考えなくてはならない。

世の中、変なものでオレのような人間でも「動機」が無いと「世間に納得」して貰えない。
そんな事まで考えながら、犯罪計画を練っている奴なんていやしないだろうに。我ながら律儀なもんだ、そう思った。

……動機は、悪いが詩都にしよう。振られたから、ヤケになってやった事にすれば「痴情の縺れ」で納得して貰えそうな気がする。
いささかカッコが悪いが、説得力はそこそこありそうだ。

部屋の中を見渡すとテーブルの向こうにカードキーが転がっているのが目に入った。
そしてそれを見たオレの頭の中で、再び愚考が枝を広げはじめる。
クスクスと知らないうちに笑い声が口から漏れていて、呼応するかのようにガチガチに股間が隆起しているのが分かった。
大丈夫だ、オレは狂っている。

……そうだ、もう一つ、もう一つだけ「動機」を付け加えよう。
必死に笑いを心の奥に隠すと、オレはのそりと立ち上がって身支度をはじめた……


 

(C)2003 すたじお実験室/(C)Ultramarine3

   

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